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相続した田畑を遊ばせておくより、上に太陽光パネルを載せて売電収入を得ながら下で作物も作れる。そう聞いて営農型太陽光(ソーラーシェアリング=農地に支柱を立て、その下で農業を続けながら発電する仕組み)に踏み出す人が増えています。ところが実際に行き詰まる例の多くは、パネルやパワコン(発電した直流を交流に変える機器)の不具合ではありません。「下の畑で作物が育たなくなる」ことが引き金になっています。
ソーラーシェアリングは、農地を農地のまま使い続ける前提で特別に発電を認めてもらう制度です。そのため成否を分ける基準は一つに絞れます。20年という発電期間のあいだ、下部の農地で作物を作り続け、収量を一定以上に保てる計画かどうか。ここが崩れると、発電が順調でも設備を置き続けられなくなります。この記事では、なぜ営農が続かないのか、そのとき設備がどうなるのかを、農林水産省の公的データに沿って整理します。
失敗の正体は「発電」ではなく「営農」の未達
通常の野立て太陽光(更地に架台を組んで設置する発電所)は、土地の用途を発電所に転換してしまえば、あとは発電し続けるだけです。これに対してソーラーシェアリングは、農地を農地として残したまま、支柱部分だけを一時的に別用途へ転用する扱いになります。この「一時転用」という言葉が、失敗の構造を理解する鍵です。
発電事業者から見れば太陽光発電所ですが、制度上はあくまで「農業を続けることを条件に、発電も認めてもらっている農地」です。したがって農業がおろそかになった時点で、発電を認めてもらう前提そのものが崩れます。設備の性能や日射量ではなく、下で誰が何をどれだけ作れるかが事業の寿命を決めます。
一時転用許可は期限付きで、収量維持が更新の条件
一時転用の許可には期限があり、期限が来るたびに営農の状況(作付けの内容と収穫量)を農業委員会へ報告し、あらためて許可を受け直す必要があります。ここで問われるのが、周辺で同じ作物を作っている農地と比べて、下部農地の収量が大きく落ちていないかという点です。パネルで日射をさえぎる以上、収量はどうしても下がりやすく、その低下が基準を超えると更新が認められません。
収量の維持基準として「周辺の平均的な収量からおおむね一定割合以上を保つこと」が求められますが、その具体的な割合(何割以上を保つ必要があるか)は本記事の確認済みデータに含めていないため、ここでは数値を断定しません。いずれにせよ、収量の維持が更新のハードルであることは制度の骨格です。
公的データで見る「4件に1件が営農に支障」
ソーラーシェアリングは着実に増えています。営農型太陽光発電の設備を設置するための農地一時転用許可は、令和5(2023)年度までに累計6,137件、その下部の農地面積は1,361.6ヘクタールに達しました。平成25年度の累計70ヘクタールと比べると規模は大きく広がっています。
一方で、うまくいっていない実態も同じデータに表れています。令和5年度末の時点で、下部農地での営農に支障があったものの割合は24パーセント(1,221件)にのぼり、前年度から2ポイント(294件増)上昇しました。ほぼ4件に1件で、肝心の農業に何らかの問題が起きている計算です。しかもその支障の中身は、大半が収量そのものの落ち込みでした。
| 営農に支障があった内容(令和5年度末・1,221件) | 割合 | 件数 |
|---|---|---|
| 単収減少・生育不良(営農者に起因するもの) | 71% | 872件 |
| 設置工事等の遅延 | 12% | 144件 |
| その他 | 10% | 118件 |
| 単収減少・生育不良(災害等によるもの) | 7% | 87件 |
注目すべきは、支障の7割強が「災害」ではなく「営農者に起因する単収減少・生育不良」だという点です。台風でパネルが飛んだといった不可抗力ではなく、日照不足への対応や日々の管理が追いつかず、作物が計画どおり育たなかったケースが中心ということです。ここが、ソーラーシェアリングの失敗が「設備の話」ではなく「営農の話」である何よりの証拠になります(数値はいずれも農林水産省の資料に基づく2026年9月時点の公表値)。
「何でも作れる」ではない、作物選びが成否を分ける
パネルの下では日射が減るため、育てられる作物はおのずと絞られます。下部農地で実際に栽培されている作物の内訳を見ると、この現実がはっきりします。
- 観賞用植物が36パーセント(2,147件)で最も多い
- 次いで野菜等が28パーセント(1,654件)
- 果樹が13パーセント(791件)
作物別に細かく見ると、さかき・しきみが32パーセント(1,901件)、みょうがが6パーセント(374件)を占めます。さかきやしきみは神事や仏事に使う枝物、みょうがは日陰を好む作物で、いずれも「パネルで日照をさえぎることを前提にできる」性質を持っています。裏を返せば、日射をたっぷり必要とする一般的な露地野菜や穀物は、パネル下では計画どおりに収穫しにくいということです。
実際、日射との相性は数字にも表れています。水稲では、減収を2割程度に抑えられる遮光率はおおむね30パーセントとされ、それを超えて遮ると収量の落ち込みが大きくなります。発電量を増やそうとパネルを詰めるほど下は暗くなり、営農の要件を満たしにくくなるという相反する関係があるのです。「上でしっかり発電し、下でも普通に稼げる」という前提で計画を立てると、この段階でつまずきます。
収量が保てないと設備撤去に至る流れ
営農が計画どおりに進まないと、最終的に設備の撤去まで進むことがあります。順を追うと次のようになります。
- 下部農地の収量が周辺と比べて大きく落ち込む、または耕作が実質的に止まる。
- 毎年の営農状況の報告で、収量の低下や耕作放棄が把握される。
- 一時転用許可の期限が来たとき、更新(再許可)が認められない。
- 許可の前提が失われるため、農地を元の状態に戻す義務が生じ、支柱・架台・パネルを撤去することになる。
- 撤去には費用がかかるうえ、売電による回収も止まるため、投資全体が赤字に振れる。
ここで重い負担になるのが撤去費用です。ソーラーシェアリング特有の撤去単価を示した公的な統計は確認できていないため金額は記しませんが、支柱を地中深くまで打ち込む構造上、更地の野立てより解体・原状回復の手間が増える傾向があります。撤去費用の目安や解体等費用の積立制度は別の記事で扱っていますが、いずれにせよ「20年発電すれば回収できる」という試算は、途中で撤去に至った時点で崩れます。売電収入の入り口である売電の仕組みや実質利回りの考え方は、太陽光投資とは|売電の仕組みと実質で手元に残る利回りで整理しています。
失敗を避けるために着手前に確かめること
ここまでの構造を踏まえると、契約前に確かめるべき点は営農側に集中します。条件ごとに判断の目安を示します。
- 誰が営農を続けるか:自分で耕作を続けられないなら、20年間任せられる担い手(農家や農業法人)が確保できているか。担い手不在のまま始めると、収量維持のハードルを越えられません。
- 何を作るか:さかき・しきみ・みょうがのように耐陰性のある作物、あるいは観賞用など日陰でも成立する作目に計画が寄っているか。日射を要する作物を「普通に作れる」前提にしていないか。
- 遮光率と発電量の折り合い:発電量を優先してパネルを詰めすぎ、収量が周辺基準を割り込む設計になっていないか。上と下のどちらを主にするかを最初に決める。
- 更新の見通し:一時転用許可は期限ごとの更新が前提で、収量が基準を割れば更新されず撤去に至ることを、資金計画に織り込んでいるか。
- 撤去費用の備え:うまくいかなかった場合の原状回復費まで含めて、手元資金で賄えるか。
これらのうち一つでも「業者任せで自分では確かめていない」項目があれば、契約を急がないことが安全側の判断です。営農の実行体制が固まらないうちは、更地に設置する分譲型・土地付きの太陽光のように、農地の要件が絡まない投資と比較検討する価値があります。営農を伴わない形なら、収量未達で許可が更新されないという今回の失敗構造そのものを避けられるためです。太陽光投資には出力制御や災害・盗難など別のリスクもあるため、最終的には保証内容と保守費用まで見て選んでください。
よくある質問
ソーラーシェアリングの失敗は発電設備のトラブルが原因ですか。
公的データでは、営農に支障があった案件の7割強が「営農者に起因する単収減少・生育不良」でした。台風などの災害によるものは7パーセントにとどまります。失敗の主因は設備よりも、下部農地の営農が計画どおりに進まないことにあります。
一時転用許可が更新されないと本当に撤去になりますか。
一時転用は「農地を農地として使い続ける」ことが前提の許可です。営農が実態を伴わず更新が認められなければ、農地を元に戻す義務が生じ、支柱やパネルの撤去につながります。発電が好調でも、この前提が崩れると設備を置き続けられません。
どんな作物でも下で栽培できますか。
パネルで日射が減るため、作れる作物は限られます。実際の下部農地では観賞用植物が36パーセント、さかき・しきみが32パーセントと、日陰でも成立する作目に偏っています。日射を多く必要とする作物を通常どおり収穫できる前提での計画は、収量低下でつまずきやすいです。
水稲(米)はソーラーシェアリングに向きますか。
水稲では、減収を2割程度に抑えられる遮光率はおおむね30パーセントとされています。それ以上パネルで遮ると収量が大きく落ちやすくなります。発電量を優先して遮光を強めると米づくり側が成立しにくくなるため、遮光率の設計が特に重要です。
ソーラーシェアリングでもFIT(固定価格買取制度)は使えますか。
使える場合があります。事業用太陽光でFITを受けるには地域活用要件(設置場所での30パーセント以上の自家消費など)が原則ですが、農地一時転用許可が3年を超える営農型は、自家消費を行わなくても災害時の自立運転を条件にFIT対象とされています。ただし2027年度からは地上設置の新規のFIT・FIP認定が原則として止まる方針のため、新規で始める際は認定の時期を必ず確認してください(2026年9月時点)。
営農型はこれから縮小していく分野ですか。
件数は増加傾向で、一時転用許可は令和5年度までに累計6,137件、農山漁村の再生可能エネルギーの経済規模は2023年度に774億円に達しています。分野としては拡大していますが、その裏で営農に支障が出る案件も増えているため、規模の拡大がそのまま個々の成功を意味しないという読み方が必要です。
参考・出典
- 農林水産省「営農型太陽光発電について」(令和8年1月・資料1) https://www.maff.go.jp/j/study/attach/pdf/250609-22.pdf
- 農林水産省「営農型太陽光発電」 https://www.maff.go.jp/j/nousin/noukei/totiriyo/einogata.html
- 資源エネルギー庁「買取価格・期間等(2026年度以降)」 https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saiene/kaitori/fit_kakaku.html
- 調達価格等算定委員会「令和8年度以降の調達価格等について 別紙」 https://www.meti.go.jp/shingikai/santeii/pdf/114_b01_00.pdf

