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数年前に全量買取(発電した電気をすべて電力会社に売る契約)で工場や倉庫の屋根に太陽光を載せた事業者から、最近こんな相談が増えています。「設置当時の売電単価より、いま自社で買っている電気の単価のほうが高くなってしまった。発電した電気を売るより、自分の施設で使ったほうが得ではないか」。制度の開始年である2012年度の事業用単価は40円/kWhでしたが、2026年度の地上設置10kW以上50kW未満は9.9円/kWhまで下がりました(いずれも税抜、資源エネルギー庁公表値)。売る単価が下がる一方で、購入電気の単価は上がり、両者が逆転し始めたことが、自家消費への切り替えを検討するきっかけになっています。
切り替えを損得で判断する軸は3つに絞れます。1つ目は「使うことで払わずに済む電気の単価」が「いま売れている残りの単価」を上回っているか。2つ目は切り替え工事と申請にかかる費用を、その差額で何年で回収できるか。3つ目は、新規に設置する場合に課される地域活用要件(30%の自家消費と災害時の自立運転)の対象かどうか。この記事では、この3点を実際の数字と申請の順番に沿って整理します。
全量売電から自家消費へ切り替えたくなる場面

切り替えが視野に入るのは、大きく3つの状況です。1つ目は、屋根や敷地に太陽光を持ち、同じ敷地で電気を使う工場・倉庫・店舗のオーナーです。発電した電気をその場で使えば、電力会社から買う電気を減らせます。2つ目は、住宅用(10kW未満)で買取期間が満了した卒FITの家庭です。買取義務が無くなるため、売るより使うほうが自然な選択になります。この住宅用の「売る単価と使う単価の差」は別記事で詳しく扱っているため、ここでは事業用を中心に説明します。
3つ目は、これから新しく事業用(10kW以上50kW未満)を認定申請する場合です。この区分は原則として地域活用要件が課され、少なくとも30%を自家消費することが認定の条件になります。つまり新規の低圧案件では「自家消費への切り替え」ではなく、はじめから自家消費を組み込んだ設計が前提になっているという違いがあります。太陽光投資全体の仕組みと、売電で手元に残る実質の利回りについてはこちらの記事で整理しています。
売る電気と使う電気、1kWhの値段を並べる
自家消費が得かどうかは、感覚ではなく1kWhあたりの単価で比べると判断しやすくなります。使う電気の価値は「電力会社から買わずに済んだ単価」で測ります。調達価格等算定委員会が屋根設置10kW以上の想定に用いている自家消費分の便益は19.56円/kWh(2025年度想定値、税抜)です。一方、屋根設置10kW以上のFIT単価は6年目以降が8.3円/kWhですから、同じ1kWhでも「使う」ほうが約11円高い計算になります。住宅用ではこの差がさらに開き、自家消費分の便益は27.31円/kWhとされています。
具体的な金額に落とすと差がはっきりします。屋根設置の想定設備利用率14.5%を使い、50kWの設備を例にすると、年間発電量はおよそ63,510kWh(50kW×8,760時間×0.145)です。このうち30%にあたる約19,053kWhを、売電から自家消費へ回した場合の1年間の価値を並べます。
| 19,053kWh(発電の30%)の扱い | 1kWhの単価 | 年間の価値(概算) |
|---|---|---|
| 売電のまま(屋根設置FIT 6年目以降) | 8.3円/kWh | 約15.8万円 |
| 自家消費に回す(買わずに済む便益) | 19.56円/kWh | 約37.3万円 |
| 差額(自家消費に回した効果) | 約11.26円/kWh | 約21.5万円/年 |
この試算は算定委員会の想定単価を当てはめた目安で、実際の効果は自社の購入電気単価と、昼間に施設でどれだけ電気を使うか(自家消費率)で変わります。使い切れずに余った分を売る場合、その余剰は出力制御(系統の需給に応じて発電を絞る仕組み)の対象として無制限・無補償ルール(2021年4月以降、全エリアで年間の上限日数を設けず補償なしに制御に応じる)にさらされます。自家消費して系統に流さない電気は、この出力制御の対象になりません。売電収入の変動を減らす意味でも、自家消費は系統リスクの緩和につながります。
切り替え工事の中身と費用の見方

「自家消費への切り替え」と一口に言っても、工事の中身は現状の設備構成によって変わります。費用を見積もるときは、次の項目に分けて内訳を確認すると、業者の見積書を比較しやすくなります。
- パワーコンディショナ(パワコン=発電した直流を交流に変換する装置)の設定変更、または自立運転(停電時に外部電源なしで発電を続ける機能)に対応した機種への交換
- 施設内で使うための構内配線と、受変電設備(高圧で受電する場合の変圧設備)の工事
- 逆潮流(発電した電気を系統に流すこと)を売電するか止めるかを切り替えるための逆電力継電器(RPR)などの設定
- 電力量計(メーター)の交換と、電力会社との受給契約の変更
- 発電量と消費量を分けて把握するための監視システムの改修
このうち工事費の相場は、設備の規模や高圧か低圧かで大きく開くため、本記事では推測の金額を載せません。判断のときは、先ほどの「差額 約21.5万円/年」のような自家消費で生まれる年間の効果に対して、工事費と申請費用の合計を割り、回収年数を出すのが基本です。回収年数が残りのFIT期間や設備の想定寿命に対して十分短いかどうかで、切り替えの是非を測ります。
電力会社と国への申請の流れ
切り替えの手続きは、まず「FITを残すのか、やめるのか」で分岐します。条件を追って進めると迷いにくくなります。
- 現状を確認する。認定通知書で、いまの認定区分(全量か余剰か)と調達価格、残りの調達期間を確認します。売電単価が高く期間が長く残っているほど、全量をやめる判断は慎重に行います。
- 方針を決める。(a) FITを残して余剰売電に変える(発電の一部を自家消費し、余りを売る)か、(b) FITをやめて全量を自家消費に回すか、を選びます。(a)は事業計画の変更認定、(b)は廃止届が関わる手続きで、いずれも扱いは区分ごとに異なるため、詳細は認定機関に確認します。
- 電力会社(送配電事業者)へ申し込む。系統連系と受給契約の変更を申請します。
- 国(FIT)へ申請する。売電を余剰に変える場合は、事業計画の変更認定申請を行います。
- 工事と受給開始。メーター交換や連系の切り替えを経て、自家消費・余剰売電の運用に入ります。
実務では、電力会社の系統連系変更の手続きが期間を左右することが多く、工事日程はその回答を待って組みます。全体の所要期間は規模と地域で幅があるため、断定的な日数は示せません。契約から連系までの一般的な期間の考え方は設備の新設と共通する部分が多く、早めに送配電事業者へ相談しておくと段取りが安定します。
地域活用要件の「30%自家消費」との接続

新規に事業用太陽光(10kW以上50kW未満)をFIT認定する場合、地域活用要件として2つが課されます。1つは設置場所で少なくとも30%の自家消費等を行うこと、もう1つは災害時に自立運転を行い、給電用コンセントを一般の用に供することです(資源エネルギー庁)。この要件があるため、新規の低圧案件は最初から「30%以上を自社で使う」前提で設計されます。既存の全量設備を切り替える場合とは出発点が異なる点に注意が必要です。
例外もあります。農地の一時転用許可が3年を超える営農型太陽光(ソーラーシェアリング)は、自家消費を行わなくても災害時の活用を条件にFIT対象になります。また沖縄地域や離島等の供給エリアでは地域活用要件は適用されません。既存の認定設備に30%要件が遡って及ぶわけではありませんが、変更認定の内容によっては要件の確認を求められることがあるため、切り替え前に設置自治体と認定機関へ確認することをおすすめします。
よくある質問
全量買取のFITを途中で自家消費に切り替えると、残りの調達価格はどうなりますか
余剰売電に変更する場合は、売る分の単価は認定された区分のまま残り、自家消費に回した分を売電しないという形になります。全量自家消費にしてFITを廃止する場合は、その設備のFITは終了します。区分ごとに扱いが異なるため、変更認定と廃止届のどちらに該当するかを認定機関に確認してから進めてください。
自家消費に切り替えると出力制御の対象から外れますか
施設内で使い、系統に流さない電気は出力制御の対象になりません。余った分を売電する場合、その余剰分は無制限・無補償ルールの対象として残ります。自家消費率を高めるほど、系統側の制御による収入変動を受けにくくなります。
切り替え工事にはどのくらいの期間がかかりますか
設備規模や高圧・低圧の別、電力会社の連系変更手続きの回答時期によって幅があり、一律の日数は示せません。実務では送配電事業者の手続きが日程を左右することが多いため、方針が固まった段階で早めに相談すると段取りが安定します。
30%自家消費の地域活用要件は、既存の全量設備にも及びますか
この要件は新規に事業用(10kW以上50kW未満)をFIT認定する際に課されるものです。既存の認定設備に自動で遡及するわけではありませんが、変更認定の内容によっては確認を求められることがあります。設置自治体と認定機関への確認をおすすめします。
自家消費に回すと税務は変わりますか
売電収入が減ると、消費税の課税判定や所得区分の考え方に影響することがあります。会社員が生活用に設置した余剰売電は消費税の課税対象外ですが、全量売電は課税対象と整理されています(国税庁)。切り替えで売電の形が変わる場合は、税理士や所轄の窓口に確認してください。
蓄電池を足せば自家消費率を上げられますか
蓄電池を併設すれば、昼に発電した電気を夜に使うことができ、自家消費率を高めやすくなります。ただし設備の変更にあたって変更認定が必要になる場合があるため、追加の前に手続きの要否を確認してください。
参考・出典
- 資源エネルギー庁「買取価格・期間等(2026年度以降)」 https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saiene/kaitori/fit_kakaku.html
- 調達価格等算定委員会「令和8年度以降の調達価格等について(別紙)」 https://www.meti.go.jp/shingikai/santeii/pdf/114_b01_00.pdf
- 調達価格等算定委員会「令和8年度以降の調達価格等に関する意見」(地域活用要件) https://www.meti.go.jp/shingikai/santeii/pdf/20260205_1.pdf
- 資源エネルギー庁「出力制御について」 https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saiene/grid/08_syuturyokuseigyo.html
- 国税庁 質疑応答事例(消費税・太陽光発電による余剰電力の売却) https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/shohi/02/42.htm
- 太陽光投資ナビ(運営: 松原 潤) https://taiyoko-toshi-navi.com/

